米国の財政見通しは悪化しているが、ウォール街は気にしていないようだ。
米議会予算局(CBO)は先月、2024会計年度の財政赤字が1兆9000億ドル(約300兆円)に達するとの見通しを発表した。これは昨年度の1兆7000億ドルを上回る水準で、従来予想の1兆5000億ドルから引き上げた。発表当日の米国債相場は上昇した。赤字の穴埋めに向けた一連の大規模な国債入札にもかわらず、国債相場は上昇基調を維持し、足元の国債利回りは昨年の高水準から大幅に低下している。
債務残高が膨らみ続ければ市場の動揺を招きやすくなるとの懸念を抱いていた一部のアナリストにとっては意外な状況となっている。ここでは国債市場が直面する課題と、市場はこれまでのところどのように課題に対処してきたのかを考察する。
<巨額の財政赤字>
財政赤字の拡大は、政府が国債発行量を増やす必要があることを意味する。米国の現在の赤字は経済規模に比べて著しく大きい。米国が世界大戦や感染症の世界的大流行といった危機に直面していないことを考えると、赤字の大きさは際立つ。
多くの財・サービスに当てはまるように、債券は需給の綱引きに影響される。もし投資家が債券の保有量に満足しているにもかかわらず、さらに多くの債券が供給されれば、価格は下がり利回りは上昇するだろう。
ここにはリスクが付きまとう。米国債利回りは米政府による新規借り入れコストを反映する。政府は企業や個人よりも債務不履行に陥る可能性が格段に低いと認識されているため、借り入れ拡大に伴う国債利回りの上昇は、社債を発行する企業や住宅ローンを借りる家計など、幅広い分野で借り入れコストを押し上げる。利回り上昇はまた、株価の重荷になりやすい。比較的安全な代替投資先としての国債の魅力を高めるためだ。
政府の借り入れ見通しが変化しても、通常は利回りに与える影響は限定されている。とはいえ、影響が大きくなる場合もある。
例えば、昨年8月に国債相場は急落した。米財務省が四半期ごとの国債発行の見通しを引き上げ、政府は投資家の予想を上回る規模の国債入札実施を迫られることが明らかになったためだ。
相場急落を受け、ウォール街では国債の供給が今後の利回りに与える影響が大きくなるとの警戒感が高まった。
ところが、10年物国債利回りは結局、10月下旬の5%前後がピークとなった。財務省がその後の入札予定について、増発規模は投資家の予想をやや下回る程度になると示したことが投資家にはサプライズとなり、国債相場を押し上げた。弱い内容の経済指標が発表されたこともあり、10年債利回りは年末には3.9%を割り込む水準に低下した。
<「リスクフリー」のリターン>
現在、10年債利回りは4.2%前後で推移する一方、米国債発行残高は27兆ドルを超えている。
これほど多くの供給に対し、投資家の需要はどうして釣り合うのだろうか。
大きな理由の一つとして、米国債は満期まで保有する限り、基本的にリスクなしで相応のリターンを提供することが挙げられる。
投資家には「リスクフリー」のリターンを得る別の方法もある。実質的に、米連邦準備制度理事会(FRB)に対して翌日までの貸し出しを行うことで、連邦公開市場委員会(FOMC)で決定される金利を受け取ることができる。ロールオーバー(再投資)を繰り返して10年間続ければ、手にする額は金利が上がれば増え、下がれば減ることになる。あるいは、10年物国債を買ってリターンを固定することもできる。
こうしたことから、米国債利回りは一般的に、国債償還までの期間に短期金利が平均でどの程度になるかという投資家の予想に連動する。もし新発債が増え、10年債利回りが投資家が短期貸し出しのロールオーバーで得られるリターンを上回れば、投資家にとっては10年債の購入を選ぶ強い動機となるだろう。こうした需要の急拡大によって、利回りは再び低下することになる。
実際、FRBが設定するフェデラルファンド(FF)金利と10年物国債利回りは過去60年にわたって密接な関係を示してきた。
10年債利回りがどの程度、他の要因との比較で短期金利の見通しを反映しているかを確実に知ることは不可能だ。こうした要因とは予想外のインフレに対する懸念や需給などで、エコノミストが一般的に「タームプレミアム(期間に応じた上乗せ金利)」と呼ぶものだ。
エコノミストらはそれでも、答えを出そうとモデルを考案してきた。例えば、ニューヨーク連銀のエコノミストが作成したモデルによると、現在は期間10年のタームプレミアムはわずかにマイナスになっている。つまり、債券の供給が利回りを押し上げているとしても、上昇分は他の要因によって打ち消されていることが示唆されている。投資家は株価下落による潜在的な損失に対するヘッジとして米国債を購入したいと思っていることなどが織り込まれていると考えられる。
<外国からの需要>
投資家はドイツや日本などが発行する国債も安全性が極めて高いとみなしている。ただ、米国債には世界中の投資家にとって特に魅力的な特徴がある。
大きな利点の一つは、米国債は他の債券よりも取引しやすいことにある。この場合、規模が持つ意味は大きい。米国債の発行残高は巨額であるため、投資家は実質的に、どのような年限の国債でも容易に大量購入できる。また、すぐに買い替えができるため、投資家はためらわずに保有国債を売却しやすい。
米証券業金融市場協会(SIFMA)によると、米国債の売買高は昨年、市場規模の7倍以上となる約190兆ドルに達した。一方、ドイツ国債会社(GFA)によると、ドイツ国債の売買高は約7兆ドルで、昨年末時点の発行残高の4倍に過ぎない。
米国債の流動性の高さがドルが世界の基軸通貨とされる要因になっているとアナリストは指摘する。中央銀行や各国政府が外貨準備を保有する目的はさまざまで、自国通貨の価値を管理することなどが含まれる。外貨準備としてドルが好まれるのは、米国債は他の国債よりも売買しやすいためという側面がある。
元米通商代表部(USTR)顧問で、現在は米シンクタンクの外交問題評議会でシニアフェローを務めるブラッド・セッツァー氏は「ドルが支配的な準備通貨であるというよりも、米国債が世界の支配的な準備資産なのだということを私は時折話してきた」という。
セッツァー氏は、投資家が現金と同等の安全資産とみなす超短期の債券やFRBが保有する債券、外国の中銀が保有する債券など特定の米国債を除外して考えれば、米政府が抱える巨額の債務は管理しやすくなるの見解を示す。
米国債は長年、全般的な経済情勢や人口動態、ドイツの政府借り入れの少なさなどを背景に、おおむね他国の国債よりも高い利回りを提供してきた。このため、年金基金や生命保険会社といった、資産の長期保有を前提とする投資家からの安定した需要に支えられてきた。
<今後の見通しは>
米国債の供給が拡大し続けることを多少なりとも懸念している投資家やアナリストは多い。
昨年の国債相場の急落について、TDセキュリティーズの米金利戦略責任者、ジェナディー・ゴールドバーグ氏は、米国債に対する需要が「時間の経過とともに変化する」ことを改めて実感させる出来事だったと語る。同氏は懸念すべき点として、「投資家が今日は米国債を買っていても、明日も買わなければならないわけではない」と述べた。
一方、RBCキャピタル・マーケッツの米金利戦略責任者、ブレーク・ グウィン氏は、予想される財政赤字の規模はかなりの程度、現在の国債利回りにすでに反映されている可能性があると指摘する。
同氏は、米財務省の国債発行は「非常に長くて緩やかであり、市場はそれを消化するための極めて多大な時間を有している」との認識を示した。
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いちのりのつぶやき
いちのりも3ヶ月前位から米国債をいくつか購入しています。試しに3ヶ月後、半年後、1年後に満期の来る国債。家計でしばらく使う予定がないが20年後なら使う予定があるお金を20年後に満期が来るトレジャリーボンド(ゼロクーポン債)を購入。あとマネックス証券では三井住友銀行と三菱UFJ銀行の米ドル建て債券があるので2年と4年後に満期が来るものを購入、最後に外貨MMFも購入しています。
本来であればこんな時期株式で運用やろが!!って怒られてしまいそうですが中途半端に入ることが苦手なんで次の暴落までは米国株に手が出せず、かといって全く運用しないのもお金を遊ばせてしまっているので、それなら国債に挑戦してみよか。ってな感じで購入しています。投信も現状はらはらドキドキしない相場ですし、もう毎営業日勝手に購入していかれるのであまり気にならなくなりました。それに輪を掛けて米国債等は穏やかに動き。。。眠くなります( ゚Д゚)ネムヒー 最近再度NTT株で遊ぶことになりポジションを取っています。週末判断で月曜注文するような投資ですが、果たしてうまくいくのか楽しみですね
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