【ワシントン】ドナルド・トランプ前米大統領は長年にわたり米国の同盟国を挑発してきた。北大西洋条約機構(NATO)の存在価値に疑問を呈し、加盟国に拠出金の拡大を求め、最近では、防衛費を十分に負担していない加盟国への防衛義務を果たさない可能性に言及した。
今週、創設75周年を迎えたNATOの首脳会議が開かれる米首都ワシントンには、NATO加盟国や米国のパートナー国の首脳が集結する。そうした中で各国首脳は、最新の世論調査の結果、11月の米大統領選で勝利する可能性が高まったトランプ氏との「共通言語」を見いだそうと躍起になっている。
各国首脳にとって喫緊の問題はウクライナ情勢だ。トランプ氏は、大統領就任前の段階でウクライナとロシアに和平協定を結ばせ、単独で戦争を終わらせると宣言している。ロシアがウクライナにNATO加盟の撤回と一部領土の割譲を求めているため、NATO加盟国からは、トランプ氏がウクライナに降伏するよう圧力をかけたり、同国軍への武器供与を停止して継戦能力をそいだりするのではないかと懸念する声も上がる。
4月にニューヨークのトランプ・タワーを訪れ、トランプ氏と2時間半にわたって会談したポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領は、ウクライナの戦略的重要性について話したとウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に明かした。夕食会で「おいしいステーキ」を食べたと述べたが、それ以上の詳細は語らなかった。
ドゥダ氏は「私が現状をどう見て、どう評価しているかを伝えた」とし、大統領時代のトランプ氏とはうまく仕事をしてきたと述べた。
こうした働きかけは一般的になっている。トランプ政権下で国家安全保障会議(NSC)の要職を歴任し、マイク・ペンス副大統領(当時)の補佐官(国家安全保障問題担当)も務めたキース・ケロッグ氏はそう指摘する。同氏はトランプ氏や陣営の代弁者ではないが、トランプ氏が当選した場合に再び幹部に起用される可能性がある。
トランプ氏の外交政策を推進するシンクタンク「米国第一政策研究所(AFPI)」のメンバーであるケロッグ氏は、昨年11月以降、大使・外相・国防相など160人以上の外国当局者と接触してきたと述べた。
「われわれは彼ら全員と話をする」とケロッグ氏は言う。「要は、彼らは政治的にヘッジしているのだ」
トランプ氏が予測不可能なことを好み、同氏の代わりに外交政策について発言する人物を陣営が正式に指定していないこともあって、各国政府による働きかけは難しさを増している。新内閣で誰がトランプ氏に影響を与えるかについて手がかりが限られるため、独自の人脈を活用したり、トランプ氏本人に接触したりしている国もある。
ドイツのオラフ・ショルツ首相は1月のワシントン訪問時と2月のミュンヘン安全保障会議の開催時に親トランプ派の主要議員を食事会に招いた。ショルツ氏の最側近であるウォルフガング・シュミット首相府長官は、ロシアがウクライナに侵攻して以降、年に数回ワシントンを訪れている。
シュミット氏はバイデン政権への公式な対応とは別に、献金者・議員・元トランプ政権メンバーといったトランプ氏支持者との人脈を築いてきた。
しかし、首脳間の個人的な親密さだけでは、NATOを巡るトランプ氏との対立を乗り越えるには不十分かもしれない。NATOは今週、ウクライナの将来的な加盟を再確認する見通しだ。バイデン政権高官は5日、NATO首脳会議の共同声明には「ウクライナの欧州・大西洋統合への道をNATOが支援するという、非常に強力なシグナルが含まれるだろう」と語った。
これに対してトランプ氏は、そもそも西側諸国がウクライナをNATOに加盟させると約束したことが、ロシアをウクライナ侵攻に駆り立てたのだと非難した。同氏は6月、ポッドキャスト「オールイン」のインタビューで、「この戦争が始まったのは本当にそのせいだと思う」と話した。
バイデン氏との討論会でトランプ氏は、11月の大統領選で当選すれば、2025年1月20日の就任前にウクライナ戦争を終わらせると述べた。具体的な方法は語らなかったが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が求めている領土割譲は受け入れられないとした。
一方、トランプ氏の元側近のケロッグ氏は、NATOの現在の戦略とは根本的に異なる一つの可能性を打ち出した。バイデン政権下で米国とNATOは、ウクライナが戦果を得れば、受け入れ可能な解決策を追求できると期待して、同国に無制限の軍事支援を提供してきた。
対照的に、トランプ政権でNSCの事務局長を務めたフレッド・フライツ氏とケロッグ氏は、米国第一政策研究所が発表した論文の中で、米国は停戦を迫り、ウクライナのNATO加盟を長期間棚上げした上で、ウクライナとロシアに戦闘停止のための和平交渉を働きかけるべきだと述べた。
「ウクライナには『このような案を支持しないのであれば支援を打ち切る』と言えばよい」とケロッグ氏は言う。「ロシアには『支持しなければ、米国が大量投入していない軍事品を全てウクライナに提供する』と言えばよい」
プーチン氏は先週、トランプ氏がウクライナでの戦闘終結を目指す考えを示したことを歓迎しつつも、その計画の詳細は把握していないと述べた。
トランプ氏の支持者によれば、同氏の大局的な目標は同盟の強化であり、貢献が不十分な国に貢献拡大を促すことでそれを実現しようとしている。だが、2018〜19年にトランプ政権で大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を務めたジョン・ボルトン氏は、トランプ氏は大統領としてNATOからの離脱を考えていたとし、再選されれば離脱する可能性があると話す。
「トランプ氏がNATO改革を試みているとの見方は滑稽だと思う」とボルトン氏は言う。「トランプ氏は集団防衛同盟とは何かを理解していない。彼は本質的に、米国は同盟国に防衛サービスを提供しているが、同盟国は十分な対価を支払っていないとの考えだ」。
NATO以外の諸外国の当局者も、トランプ氏やその側近との関係を築いている。貿易・安全保障分野で対立する問題を巡り、トランプ氏の今後の判断に影響を与えたり、少なくともその判断を鈍らせたりすることに期待してのことだ。
NATOのパートナー国として首相が首脳会議に出席する予定の日本は、トランプ氏による日本製品への関税回避と日米関係の維持を確実なものとしたい考えだ。トランプ政権時代に日本の財務相を務めた麻生太郎元首相(83)を中心に働きかけを行っている。現在、与党・自民党の「ナンバー2」である麻生氏は、4月にトランプ・タワーを訪れ、トランプ氏と面会した。
元国家安全保障局長の北村滋氏は、トランプ政権で大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を務めたロバート・オブライエン氏と仕事上で付き合いがある。2人ともコンサルティング会社を経営し、両社は戦略的提携関係にある。「それなりの人脈が形成されていると思う」と北村氏は言う。
副首相がNATO首脳会議への出席を予定しているオーストラリアは、トランプ氏再選への備えと思われる措置をすでに講じている。5月にはスコット・モリソン前首相がトランプ氏と面会した。これを受け、次期総選挙で中道右派・自由党が政権に返り咲いた場合、モリソン氏が次期駐米大使に就任するのではないかとの臆測が広がった。
メキシコでさえ個人的なつながりを築こうとしている。トランプ氏が当選すれば、メキシコ初の女性・ユダヤ系大統領となるクラウディア・シェインバウム氏(10月に就任予定の左派学者)は難しい対応を迫られそうだ。
メキシコの現職および元当局者によると、トランプ氏はアンドレス・マヌエル・ロペスオブラドール大統領と強固な協力関係を築けたが、シェインバウム氏との間ではそうした個人的な友好関係を築けない可能性がある。
シェインバウム次期政権がトランプ氏勝利に備えていることは、マルセロ・エブラルド前外相を次期経済相に指名したことからうかがえる。米国が25%の関税を課すと脅した際にトランプ政権との協議を主導したエブラルド氏は、2026年に予定されている米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直しで交渉責任者を務めることになる。
在ポーランド米国商工会議所のトニー・ホウシュ会頭は「とはいえ、個人的な結びつきでできることには限界がある上、欧州の首脳は、米政府との関係だけでなくNATO同盟についても心配している」と語った。
ポーランドの防衛費は国内総生産(GDP)の4%を超え、NATOの平均を大きく上回る。同国は過去2年間に米国と500億ドル(約8兆円)の武器契約も結んでいる。米原子力発電設備大手ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)とは、ポーランド初の原子力発電所を建設する200億ドルの事業で合意済みだ。
「ポーランドが米国と良好な関係を築くことは重要だが、安全保障を確保するためには、欧州の他の国々を巻き込む必要がある」とホウシュ氏は言う。「米国だけでは不十分だ」
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いちのりのつぶやき
日に日に「もしトラ」が現実味を帯びてくるような雰囲気になってきていますね。やはりバイデン氏だと年齢による頼りなさ感が出てきているのかもしれません。かといってトランプ氏も78歳なんでバイデン氏の81歳とそんなに変わらないんですけどね(;^_^A もっと若い人が出たらいいのにって思うけど大統領選は莫大な金がかかるんでしょうねきっと。。。ってことで大統領選はどっちに転んでも株式市場は一波乱ありそうなので一波乱待ちの身としては「せっかくなんで荒れろ~~!!!」って思っております。もしトラが一番嫌なのは中国とロシアなんでしょうね(北朝鮮は無視)
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