インフレ退治、重要なのはパウエル氏の考え
――筆者のグレッグ・イップはWSJ経済担当チーフコメンテーター
1970年代に米国でインフレが制御不能に陥った要因の1つとして、政策担当者がその原因について強力な企業と労働組合といった異端の理論を掲げていたことが挙げられる。こうした傾向は、反トラスト法(日本の独占禁止法に相当)の執行徹底や法人増税、国内での生産拡大を通じてインフレ退治を狙うジョー・バイデン大統領の計画にもみてとれる。
これらの要素はインフレがなぜ8%を超える水準まで跳ね上がったのかを説明するものではなく、問題を解決できる見込みも薄い。仮にバイデン氏がインフレに関して最終決定権を持っているとすれば、米国が1970年代と同じ轍(てつ)を踏みかねないとの懸念が生じるかもしれない。
だが、最終決定権を持っているのはバイデン氏ではなく、米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長だ。しかも、バイデン氏は先週、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)への寄稿で、パウエル氏が利上げとインフレ抑制に取り組む中でFRBには干渉しないと述べ、まさにその点を明確にした。
これこそが、1970年代の再来はないと想定する最大の理由だ。金融政策がインフレの責任を負うとの考えは当然のように思えるかもしれないが、当時はそうではなかった。2006年〜14年にFRB議長を務めた金融学者、ベン・バーナンキ氏も新著「21世紀の金融政策:大インフレからコロナまでのFRB(仮題)」で、その点を指摘している。
当時、マクロ経済理論の主流だったケインズ派の間では、米国の社会がインフレに陥りやすくなったとの見方が広がった。バーナンキ氏は重要な点として、リチャード・ニクソン元大統領が1970年にFRB議長に指名したアーサー・バーンズ氏がこうした考えに賛同していたことを指摘している。
「バーンズ氏の見解では、このインフレ高進への傾斜とは、大企業や労組が市場原理から自らを守る能力、つまり価格や賃金を思いのままに押し上げるために利用する力が高まっていることを反映したものだった」とバーナンキ氏は記している。
バーンズ氏はインフレ加速は過剰な需要ではなく、価格の値上がりが要因だとみていたため、金融政策の引き締めは「インフレ退治にはコストの大きい非効率な方法だととらえており(中略)金融政策のみでインフレを完全に抑制できるまで失業率の上昇が続く、あるいはその決定をFRBが下すことを国民が許容するとは考えていなかった」という。
バーンズ氏の言動に政治が何らかの影響を与えた可能性はある。ニクソン氏は1972年の選挙を控え、金利を低く抑えるようバーンズ氏に圧力をかけていた。しかし、バーナンキ氏によると、バーンズ氏は金融引き締めの代替策として、賃金・物価の抑制策を実施するようニクソン氏に迫っており、両氏はそれぞれ圧力をかけていた。
その後、バーンズ氏の後任としてFRB議長に就任したポール・ボルカー氏はインフレ抑制に成功する。それ以降、FRBはインフレ制御を責務として受け入れた。バーナンキ体制だった2012年には、FRBは正式に2%のインフレ目標を採用した。
にもかかわらず、ワシントンでは再び政治家にインフレの責任を負わせようと躍起になっているムードが漂う。それ故、インフレの先行きを見誤ったと率直に認めたジャネット・イエレン財務長官の発言が注目を集めた。
イエレン氏ほど注目を集めなかったが、パウエル氏がインフレ予想が間違っていたと認めた意義ははるかに大きい。パウエル氏は先月、WSJのイベントで「振り返れば(中略)もっと早い段階で利上げしておくことが望ましかった」と述べている。政権関係者の一部もこうした見方に同意している。
パウエル氏がインフレ高進の大半について、FRBが影響を及ぼすことのできないサプライチェーン(供給網)の混乱によるものとの考えを示している点については、1970年代と状況が似ている。しかしながら、バーンズ氏はFRBの責任ではないとの立場であるのに対し、パウエル氏は責任だと受け止めている。パウエル氏はこれまで、経済がどの程度供給できるかにかかわらず、FRBは供給にあわせて需要を調整する必要があるとの考えを示している。
「供給面で実際に支援が得られるまでは、支援が得られるとの想定に立って金融政策運営を行うことはない」。最近行われた会見では、物価高の要因とされる財政政策がインフレ退治で何らかの役割を果たせるかとの質問が出た。パウエル氏はこれに対し「物価安定の責任は何よりFRBにある。財政政策で何が起ころうとも、われわれはそれ(物価安定の責任)を当然のものとして受け止めている」と答えている。
とはいえ、バイデン氏に全く責任がなく、果たせる役割がないとは言えない。わずかではあるが、バイデン氏の景気刺激策もインフレを押し上げる要因となった。食品やエネルギーを除くコアインフレ率はカナダ、英国、ユーロ圏でコロナ前の水準と比べて3ポイント上がった一方、米国では4ポイント上昇している。
大統領としてインフレに影響を与える最も効果的な方法はFRB人事を通じてであり、その人物に金融政策運営で自由な裁量を与えることだ。ドナルド・トランプ前大統領は2017年、パウエル氏を議長に指名したが、その後低金利・ドル安に誘導するようパウエル氏に圧力をかけた。
パウエル氏がトランプ氏を無視すると、トランプ氏は解任をちらつかせ、FRB幹部人事で政治的に忠実な人物を指名してパウエル氏の立場を弱めることを狙った。だが、いずれの候補者も上院で承認されることはなかった。
バイデン氏のFRB人事は、銀行規制の強化、気候変動対策、格差是正という、同氏が当初重視していた優先課題を反映した人選だった。だが、バイデン氏はここにきてインフレ抑制が最重要課題だと明言。FRBに干渉しない姿勢を示し、度々口を出していたトランプ氏と一線を画した。
それでも、バーンズ氏がなぜ失敗したのかを心にとどめておくことは大切だ。バーンズ氏は利上げしたが、インフレを抑制できるほど高く、あるいは長期にわたって政策金利を引き上げることはしなかった。バーナンキ氏によれば、ボルカー氏は議長に就任すると、「重大な岐路で」インフレよりも「経済活動の弱含みやその他の目標」を一段と懸念していたとして前任のバーンズ氏を批判していた。
パウエル氏の重大な岐路はなお先だ。ボルカー氏のように、パウエル氏がインフレを退治するには数年の月日とリセッション(景気後退)入りが必要になるかもしれない。それでも、バイデン氏はパウエル氏を支持するのか。そもそもバイデン氏が大統領の座にとどまっているのか――それともトランプ氏なのか。
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~私見~
先日CPIは発表され依然として高い数値が発表された。
これを受けて来週の利上げがいくらになるのかを
予想するのが経済エコノミストの喫緊の仕事で
みんなもっともらしい理由をつけては
持論を展開すると思われる。
かといって当たっても外れても別にその人の
給料が上がったり下がったりはしないような気がするが
「当たりました!」って声高に自分の優秀さを
ひけらかすことには使えるんでしょうね
数倍、数十倍、数百倍難しい仕事だと思う。
日銀なんてそこのツマミを無くしたと
思うので金利が変わる事なんてほぼないのでは
ないだろうか??と思っているが
米国や欧州はしっかりとそのツマミを調整しようと
頑張っている。
一時的に利上げが続き、株価が奈落の底に落ちようとも
それでアメリカ経済がしっかりと成長続けて
いけるんであれば別に短期的には株価が下がっても
気にしませんしむしろいっぱい買えるから
ありがたいとさえ思っている。
ただし、しっかりと舵取りして
将来的にはしっかりと成長させてね♪♪
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