複合企業の呪い、ブロードコムは回避できるか
――投資家向けコラム「ハード・オン・ザ・ストリート」
米半導体大手ブロードコムは来年、今とは大きく異なる姿を見せるだろう。肝心なのは正しい部分が同じであり続けることだ。
先週合意したクラウドサービス大手ヴイエムウェアの610億ドル(約7兆9300億円)での買収により、ブロードコムは新たなタイプのテクノロジー複合企業への道を歩み始める。
買収が完了すれば(現段階では2023年10月に終了するブロードコムの事業年度内の見通し)、同社の売上高の約半分をソフトウエアが占めるようになる。現在のチップ不足が緩和され、半導体業界がシクリカル(景気循環的)な性質に戻るならば、この構成比がさらに拡大する可能性もある。米半導体工業会(SIA)のデータによると、世界の半導体売上高は過去20年のうち6年間で減少している。
だが今すぐ半導体が落ち込むことはなさそうだ。サスケハナ・リサーチが先月31日に公表したデータでは、5月の平均リードタイム(半導体を発注してから納品までにかかる時間)は再び伸びて過去最長の27.1週間に達した。
また、ブロードコムの半導体事業が低迷しているわけではない。同社はフェイスブックを運営するメタ・プラットフォームズとのデータセンター用半導体に関する年間10億ドル相当の設計契約にこぎ着けたと見られる。JPモルガンのアナリストが31日のメモにそう記した。
将来の半導体サイクルへの備えとしてヴイエムウェアが直ちに必要なわけではないが、今回の買収計画は明らかに、巨大ハイテク企業がその帝国の一部を手放す最近の潮流に対してブロードコムが逆行していることを示す。
かつてヒューレット・パッカード(HP)の名で知られた企業は2015年に2社に分割され、IBMは昨年、ITサービス部門を切り離し、新会社キンドリルを設立した。ヴイエムウェア自身もデル・テクノロジーズの傘下から昨年11月にスピンオフ(分離・独立)した企業だ。
このような動きは大抵、「価値創出」の考えに基づいて推進される。比較的低いバリュエーションに沈みがちな複合企業は、大きすぎて経営が難しいとか、衰退する成熟事業が重荷になっているなどと見なされる。半導体とソフトウエアを組み合わせたハイブリッド企業はほぼ前例がないという理由で懸念を示すアナリストもいる。
「もし市場でマルティプル(株価収益率など)が改善しなければ、この会社が結局、将来のある時点で価値を創出するために2つに分割されても不思議ではない」。レイモンド・ジェームズのクリス・カソ氏は顧客向けメモでこう指摘した。
この複合企業の呪いを回避するには、ブロードコムがこれまで用いてきた合併・買収(M&A)戦略が今回も有効に働くことを示す必要がある。
同社は過去7年間に10億ドル(約1300億円)を超える大型買収を5件成立させている。買収を通じて、元々はワイヤレス機器に用いる高周波(RF)半導体を主に手がけていた会社の業態は大きく変わった。ブロードコムの2021年度の通期売上高は約275億ドルと、アバゴという社名だった2015年度の4倍に増えている。ブロードコムの真の業績を示す通年フリーキャッシュフローは、同じ期間に8倍近い約133億ドルに膨らんでいる。
それでもヴイエムウェアの買収は、新たな種類の賭けを意味する。通期売上高が現在130億ドル近くあるヴイエムウェアの事業規模は、ブロードコムが2018年に買収したメインフレーム用ソフトウエア企業CAテクノロジーズの当時の事業規模の3倍以上だ。また、世界中の企業がヴイエムウェアのアプリケーションを使用してデータセンターやクラウドベースのサービスをより効率的に運用するなど、はるかに広範囲に利用されている。
そのため大がかりな販売網が必要となる。ヴイエムウェアの販売・マーケティング費用は現在、年間40億ドルを超えている。これは過去4四半期にブロードコムが同費用に使った額の3倍以上だ。ブロードコムの売上高は2倍以上であるにもかかわらずだ。
ブロードコムの買収の基本は、少ない費用で大きな成果を引き出すという考え方だ。ブロードコムはこの案件を発表する際、ヴイエムウェアの税引き前の年間利益を80%押し上げる目標を示した。
ブロードコムのソフトウエア部門社長であるトム・クラウス氏は、先週の電話会議でアナリストに対し、同社には「収益のスイッチを入れる複数のつまみ」があるとし、例えば、販売とマーケティングの「効率化」を進めることだと述べた。UBSのカール・ケアステッド氏も顧客向けメモの中で、「非中核事業」売却の可能性を含め、「ヴイエムウェアには相当な収益向上の可能性がある」と指摘した。
ウォール街もこれに乗っかる構えだ。ブロードコムの株価は、最初の買収報道を受けて3%下げたがその後は回復し、正式発表からの3営業日で9%高となった。ブロードコムの予想PER(株価収益率)は約15倍で、複合企業だった頃のHPやデルが1桁だったのに比べればはるかに評価が高い。
一方、半導体業界とソフトウエア業界のそれぞれの平均予想PERを大きく下回っている。2つの世界にうまくまたがることができると証明して初めて、ブロードコムの業績が上向く可能性が出てくる。
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~私見~
VMウェアはもともとDELLから分社化された会社
だったんですね。それをブロードコムが買収した。
そして半導体とソフトウェアという事業の
合体は珍しいという事で注目を浴びている。
言われ好不況の波が激しいことで有名だが
昨今の半導体需要が旺盛であらゆる産業に
半導体需要がある現在では果たしてシクリカルな
業界であるのかな?という疑問が生じる。
なので昔のように半導体不況の際には
VMウェアのソフトウェアの収益で賄って
好不況の波を打ち消し合いながら成長するという
考えも一理あるだろうが、半導体で
常に先頭集団に居続ける方が大事なのかな?
とも思ってしまいます。
半導体は好不況の波というよりも
最新を出し続けるといったサイクルで
動くような気がするので常に好況だけど
一旦新しいのが出たらしばらく安泰って訳ではなく
次の高性能半導体を生みだす必要がある。
良い自転車操業って言ってしまうと
それもニュアンスが違うような気がしますが
そんな感じかな??
まぁ、VMウェアもしっかりと独立して
高い収益を上げ続ける事ができるのならば
その収益も含めて常に半導体企業の
トップランナーであり続ける補助ができると
思っているのならば今回の買収は
いい事なんじゃないかなと思います。
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